2023年7月 理念と世界観
先日、東京・新宿で開催された時計ブランドであるパテックフィリップの展示会にお誘いを受けたので顔を出してきた。
「WATCH ART」という名称は誇張ではなく「時計という芸術品を揃えた博物展」だった。会場のあちこちから感嘆の声とため息が聞こえた。開催費用は10億円をゆうに超えると聞いた。入場は無料だったのが驚きだった。
パテックフィリップは倒産しかけた時にティファニーの支援を受けたとか女王に献上したなど歴史と語り継がれる物語がある。
また近年の世界的な高級時計リセールの高額化の代表格のブランドで、正規代理店での購入が非常に難しくなっている。欲しくても買えない、お金があっても提供してもらえない時計。ブランドとは所有者ではなく羨望する非所有の存在が欠かせない、そう感じた展示会だった。パテックの世界観、哲学、理念が凝縮された空間はこちらの感覚も麻痺させる何かがあった。販売をしていなくて本当に良かったと自宅に戻ってから我に返った次第、笑。
閑話休題。
弊社ロビン社は昨年6月、私が社長を降り新取締役社長に2名を据えてから1年が経過した。後任の2人は寝食を犠牲にしよくやってくれており頼もしい限り。
現場の業務の品質とレベルは高くなりつつあるし、仕事の押し込みは強くなった。現場での緊張感も増したと思う。想定の範囲内だったがハレーション的な社員退職、離脱もあった。 理念や思いなどの発信は簡単ではない。むしろオーナーである私がもっと積極的に組織に声かけをする必要があったと反省する点である。
さて弊社は企業理念の根幹に「顧客中心主義」を置いている。
顧客の周りに従業員、職人会、地域社会などがあり、あくまで顧客がいてからこそという考え方である。一見すると「顧客のために何でもする」と解釈されそうだが、実はそうではない。以下、社員掲示板で私が書いたメッセージである。
「私たちの経営理念は「顧客に愛され支持されて永続的に成長・発展する」ですが「顧客」とは誰を指すのでしょうか?
一般的な概念だと契約し工事をしてくださった方、お付き合いをしてくださっている方のことを指します。
しかし私はこれからお付き合いが始まりそうな方、すなわちロビンをお付き合いがしたいと思ってくださっている方、ロビンを必要だと思っている方も顧客として考えていいのではないかと思います。
そうなるとロビンで工事をした社員も、今ここで働いている私たちもすべて大切な顧客。
つまりお付き合いのあるお客様、ロビンに親しみを感じている方、そしてそこで働く私たち。そこに生まれるコミュニティ、そして地域社会も全て顧客だと考えるべきなのです。
私たちが顧客自身であるなら、顧客目線とは簡単なこと。自分が「こうしてほしい」「こうされるのは嫌だ」があるはず。お客様対応は「自分目線」でいいのです。
顧客ならこうしてほしいはずという自分目線に自信を持って業務に当たってください。」(以上ここまで)
「顧客」とは「懇意にしてくださっているお客様」という意味だ。懇意とは「親しく交際し仲の良い間柄であること」の意である。
パッテクフィリップの展示会へ行き、世界が羨望の眼差しと所有を渇望するブランドの本質とは何か?と深考した。
素晴らしい歴史と物語、また芸術的な作品はもちろん重要だがそれは本質ではない。やはり時計作りにかける哲学と理念、そしてプライドがパテック社で働く1人1人の心に染み込んでいるからだろうと思った。
人が作り人が育てる。その結晶が歴史と物語、世界観を築いていくのである。