私のゴルフ仲間で若い頃はカーレースのドライバーとして世界を転戦していた人がいた。外国人の仕事について聞く機会が多くあるが、常に「成績が悪かったら即クビ。明日から来なくていい」という環境にいる彼らのメンタルの強さはハンパないらしい。
F1ドライバーのルイス・ハミルトンはポッドキャストで子ども時代の人種差別被害やいじめ被害を告白した(アフリカ系英国人)。成績が悪ければ明日から無職になるという緊張感、自分を見下してきた人たちを見返してやるという強い気持ち。ハミルトンはマシンの出来不出来によって結果を左右されるF1において、一発にかける集中力と自分を押し通す強さで常に優秀な成績を収めてきた。育った環境が全てを決めるとは思わない。持って生まれた資質、遺伝子の影響もある。しかし彼のアイデンティティには子供時代の辛い経験が影響していることは間違いない。強い遺伝子と厳しい環境。強くならないはずがない。
苦しみや厳しさが大きいほど緊張感が増す。解き放たれた時に緩むのは常人の性か。
プロスポーツ界における選手の1つのゴールは複数年の大型契約だと思うが、後に活躍できなくなる選手を見ることは珍しくない。
日本のプロ野球でFAや大型契約をした後に長く活躍した選手はごくわずかである。期待に添えなかった選手が圧倒的に多い。そもそもプロ野球の場合は大型契約をする時期がピーク、その後に下降曲線に入ることもあり、さらなる活躍を期待する方が論理的に無理なのかもしれないが契約後の緩みが活躍できない理由だとしてもおかしくはない。
米国のNFL(アメリカンフットボール)でも、複数年の大型契約をした選手が急に活躍できなくなったり、怪我で離脱したりするようなパターンはとても多い。
練習に身が入らずサボる、怪我を恐れ強いコンタクトをしなくなるなどで成績が上がらなくなるということもあるのだろうか。特にアフリカ系選手は顕著で、そのような選手に限って熱心にSNSだけは更新し時に痛烈な批判も投稿している。お金が目的の選手はとてもわかりやすい。さすが米国である。
閑話休題。
先日ある経営者から「息子が入社をしてくるが、何からさせたらいいだろうか?」という内容の相談を受けた。
「厳しい環境だったからここまでやってこれた」という経営者は多いがいざ自分の子供には「できれば厳しい環境は避けてあげたい」というのが親心。話をしていてそんなことを感じた。
今年のマネージャーカレッジに大恵ペイント社の大本社長の息子がいる。まだ入社して間もないがすぐに営業に配属をされた。部下はまだいないが色々な経験をさせてあげたいということで研修に参加をしているのだろう。本人も期待を十分に感じている様子だ。
先日の研修でその息子にこう話をした。
「社長の息子が営業をするなら、目標達成できて当たり前、できなかったら三行半。いずれにしても満足することは何もない。このどっちに転んでもプラスはない。退路は絶たれている。しかし重圧の下での経験は必ず実力になる」
当の本人も一層、身を引き締めている様子だった。
しかし当の本人にはそう伝えたが経営者からすると違う見方ができる。達成できると自信になるし、達成できなくて苦しい思いをするのも将来的にはプラスになる。むしろ達成できない方が長期的にはよいかもしれないとさえ感じる。先輩や後輩、現場への気配り、周りに支えられているという連帯感。うまくいかない時には知恵を出し工夫をする。方法と動機づけなど1人でできることなどたかが知れている、というのを知ることもできる。
厳しい環境に身を置くことが自分を強くする、とわかっていてもできればそうでない環境を選びたいのが人間。できれば苦労はさせたくないし、余計な心配や緊張もさせたくない。特に自分の子供ならなおさらだ。
大手企業でも子供に事業を継承させる場合で失敗する事例はたくさんある。
しかしなんとか頑張ってほしいと切に願う次第である。
たまたまこのコラムを書いている時に長野県中野市で中野市議会議員の長男で農業を営む31歳が4人を殺害した立てこもり事件と、岸田首相長男で秘書官だった翔太郎氏が公邸で忘年会をした件で更迭されることが重なった。どちらもタイミング的に長男が起こしたという点で一致した。私も長男だけに思うところはあるが「田舎の長男」という切り取り方は物事の本質を見落とすだろう。このケースは育った環境の問題ではない。生まれ持ったそもそもの人の資質の問題だと思うが。